2008年06月30日

にゃんこ。

更新代わりにせめてな小話2。





 にゃうん

 どこからか聞こえてきた鳴き声に、市内の視察と称したサボリの最中だったロイは足を止めた。
 足元を見回すと、細い路地の奥、白い子猫が顔を出していて、再び、にゃん、と甘えたような声を出した。
 どこかおぼつかない足取りでロイの足元にててて、と駆け寄り、ブーツに体をすりよせるようにする。
「……何だ。どうした?」
 それほど生き物が好きなわけではないが、懐かれれば、やはりそれなりに嬉しい。
 ひょい、と抱き上げて喉の下を軽く掻いてやると、ごろごろと喉を鳴らした。
 首に赤いリボンを結んでいるところを見ると、どうやら飼い猫らしい。
 瞳は蜂蜜色。毛並みとリボンの色彩から、しばらく顔を見せていない金色の子供の事を思い出す。
「少し…似ているか? ……いや」
 呟いて、苦笑する。自他共に認める恋人同士でありながら、あの子供が素直に甘えてくれる事は少なくて。
(―…エドワード)
 そっと胸中でその名を呼んだ途端、ばたばたと慌ただしい足音が聞こえた。
「エディ! エディ?!」
 その呼びかける声と、腕の中でにゃうん、とまるで返事をするように鳴いた子猫と、その両方にぎょっとする。
「エディ! ああ良かった!」
 路地に駆け込んできたのは、ロイも顔見知りのパン屋のおかみだった。
「マスタング大佐が拾って下さったんですね。ありがとうございます」
「いや……この猫はエディという名前なのかい?」
 子猫をその手に渡しながら尋ねると、ええ、とおかみは嬉しそうにうなずいた。
「あの子から貰ったんですよ。ほら、錬金術師のエドワード君」
 いきなり出てきた名前に、ロイは一瞬あっけにとられる。
「鋼の―…錬金術師から?」
「この子、エド君が拾ってきたんですよ。飼えないからって貰い手探してて。ウチもねえ、食べ物商売だから動物はね、って思ったんだけど」
 そこまで言って、おかみはふふふ、と笑った。
「エド君があんまり必死で。……いつも元気なあの子が、貰い手が見つからないって、今にも泣きそうな顔して」
 それがあんまり可愛かったから、つい、とおかみはまた笑った。

 子猫とパン屋のおかみを手を振って見送り、ロイは再び歩きだした。
 思わず、笑みがこぼれる。
 猫好きの弟が、猫を拾ってくる度に、元のところに捨ててこいなんて口では言うくせに、泣きそうな顔をして貰い手を探していたなんて。

「……惜しかった」

 その顔は是非見たかったなあ、などと不埒な事を考えながら、とりあえず次に顔を見せた時には、この事で存分にからかってやろう、と心に決めた。
 黒髪の大佐がそんな事を思っているとはつゆ知らず、あの金色の子猫は今日もどこかの街の空の下。


多分コレも友達に送ったあとすっかり忘(以下略)
posted by 観済寺凪之介 at 22:13| 小話