2008年09月05日

HA☆GE☆

「大佐って将来、ハゲるタイプ?」

 久し振りの、定期とは言い難い定期報告。唐突にそんな事を言い出すエドワードに、ロイは思わず手にしていた報告書を床に取り落とした。
「な…何を言い出すんだね。鋼の……?」
 自分では気付かなかったが、もしや頭髪の量に陰りが見えているのだろうか、とロイは恐る恐る頭頂部に手をやる。
 ―…異常は無い。……気がする。多分。きっと。
 そんなロイの動揺など気に留める様子もなく、応接用のソファーに陣取ったエドワードは実にマイペースに話を続ける。
「いや、この前泊まった宿のおっちゃんがすげえハゲでさ。でも昔は色男でモテモテだったんだ、って自慢するから、嘘だろーと思いながら写真見せて貰ったらさ」
 エドワードはそこで言葉を切り、お茶菓子として出されたケーキをむぐむぐと頬張る。
「おっちゃんの若い頃ってのが、大佐にそっくりだった」
「………そうか」
 がっくりとうなだれながらも、ロイはとりあえず反論を試みる。
「しかし、いくら似ていたからと言っても、血縁関係でもないのだから、私が将来ハゲる根拠にはならないじゃないか」
「えー。分かんねえじゃん。体型とか顔が似てると、体質も似るって聞いた事あるし」
 にやにやと笑いながら言うエドワードに、ロイは思わずムキになって言いつのる。
「個人差もあるだろう! ……大体、君は私がハゲても構わないと言うのか?!」
「別にいいじゃん。毎日ハゲ頭をぴっかぴかに磨いてやるぜー?」
「……っ、だから、ハゲないと言ってるだろう!」
「将来の事なんて分かんねえじゃん。それにオレとしては、ハゲた方が好都合だし?」
「……何故」
 そんな事を言って笑うエドワードに、ロイは怪訝そうな表情を浮かべる。ロイの頭髪の減少と、エドワードの都合と、どう関係してくるのかがさっぱり掴めない。
「だって、大佐がハゲたら、周りに寄ってくる女の人も居なくなりそうだしさ」
「………え」
 不意打ちの言葉に、思わずロイは固まる。そんなロイを見て、エドワードは満足げにニヤリと笑ってみせた。
「ケーキごちそうさん。なあ、今日は定時上がりだろ。夕飯何食いたい?」
「え、ええと、じゃあ、グラタン……」
「了解。作って待ってるから、寄り道せずに帰ってこいよ。じゃあな」
「ああ、ありがとう……」
 エドワードを見送り、ドアがぱたんと閉じて。
 ロイは思わず、執務室の机の上に突っ伏した。
(ハゲてもいいとか、ハゲたほうが好都合とか)
 それはつまり、エドワードはハゲようが何だろうが、ロイがどんな風な容貌になっても構わなくて。
(……寄ってくる女性が少なくなりそうだとか。ああ、もう)

 それは、実に回りくどい愛の表現。

「……参った」
 机の上に突っ伏したまま。
 赤みの引かない頬を抑えながら、ロイは呻いた。




えどわどさんは本気ですよ。
posted by 観済寺凪之介 at 00:00| 小話