2008年09月28日

恋飴

観光地によくある飴を頂いたので、迷わず落書きを施しました(笑)
そしてうっかりコネタが出来ました。


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「……何だ。これは」
「土産です。ちょっと、こないだの休みに遠出したんで」
 ハボックから差し出された土産とやらを手に取って、ロイは顔をしかめる。
 病院からの処方薬を模したそれは、どうやらジョークグッズの類らしい。ロイも観光地の土産物屋で見かけた事がある。
 その名も『すてきな恋が実る飴』。ご丁寧にも、患者名を書く欄にハボックの手書きでロイの名前まで記されている。
「いらん」
「まあそう言わずに。今日、鋼の大将が報告書持ってくるじゃないですか。いい機会だし」
「……それとこれと、どういう関係がある!」
 怒ったように言い返しながらも、ロイの頬は微かに赤い。
 この愛すべき上司が、後見をしている鋼の錬金術師、エドワード・エルリックに懸想しているのは、腹心の部下全員が知っている事である。気づいていないのは、当の本人であるエドワードぐらいだろう。
「単なるジョークグッズじゃないですか。そうムキにならずに、休憩の時にでも食って下さいよ。折角買ってきたんですから」
 そう言葉を重ねると、ロイは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも『すてきな恋が実る飴』を引出しに仕舞いこむ。
 それを見届けてから、ハボックは楽しそうに笑って退出した。


「お、大将。久しぶり」
「あ、ハボック少尉。ひさしぶりー」
 ロイの執務室から出てきたエドワードにハボックが声をかけると、何やらもごもごと不明瞭な声で挨拶を返してくるのに、おや、と思う。
「……飴、舐めてんのか?」
「うん。大佐がくれた」
「へー。……何味だった?」
「ん? いちご味」
 そう答えながらも口をもごもごさせている姿は、年相応の子供のようで可愛らしい。思わず手を伸ばして頭を撫でたくなるような可愛さだ。
 もっとも、実際にそんな事をしようものなら「縮む!」と怒られるのがオチだろうが。
「そっかそっか。で、これからどっか行くのか?」
 大量のファイルや本を両腕に抱えているエドワードに、ハボックが首を傾げる。基本的にエドワードは司令部に長居はしない。報告書を提出したらすぐに旅立つのが常だ。
「ああ。何か、持ち出し禁止の書類だから司令部の中で読めって言われて」
「ああ、この前、大佐が必死に集めてた資料か」
 そのファイルに見覚えがあったハボックが何気なく呟くと、エドワードが驚いたように顔を上げる。
「必死にって……何だよ、それ」
 しまった余計な事を言ってしまった、と、ハボックは慌てて自分の口を手で塞ぐが、言ってしまった言葉が取り消せるわけもなく。
「たまたま見つけた資料だから、良かったら見て行けって。……違ったのか?」
 そんな風に問いかけてくるエドワードは、不安と困惑が入り混じったような、そんな複雑な表情を浮かべている。らしくもないその表情に、ハボックは慌てた。
「あー…ええと、まあ、その、なあ」
「もしかして、大佐がわざわざ、オレの為に探してくれてたのか?」
 ハボックをじっと見据えながら問い質してくるエドワードの瞳は、誤魔化しや嘘は許さないと如実に告げている。
 仕方がない、とハボックは諦めたように溜息をつき、大佐には内緒な、と声をひそめた。
「大佐もさ、エド達の事はいつも気にかけてんだよ。恩を着せるつもりはないだろうけど、それだけは覚えておいてやってくれよ」
 な?と付け加えると、根が素直に出来ているのであろうエドワードは、神妙な顔でこっくりと頷く。
 そしてしばし考え込み―…顔を上げた。
「少尉、今から大佐のとこに行くのか?」
「うん。……そうだけど?」
「じゃ、伝言よろしく。今日の夕飯、オレが奢ってやるから定時までに仕事終わらせろって言っといて!」
「え……」
 言うなり、勢いよく廊下の向こうに駆け出していくエドワードを唖然としながら見送って、ハボックは指先で自分の頬をかく。
 錬金術師の基本は等価交換だと聞いている。知らないところで恩を受けていたのなら返すべきだ、という発想はとてもあの金色の子供らしい発想なのだが。
 しかしそれが、夕食を奢る、という風に来るとは思わなかった。いつものエドワードなら、どこかの面倒な調査を引き受けるだとか、錬金術を使ってイーストシティ内の土木工事を手伝うだとか、そういう事で返しそうなのに。
(――…もしかして、これは)
 意外な方向に二人の関係が転がるかもしれない、と、ハボックは一人ほくそえむ。
「失礼しまーっす」
 書類を抱えて入ってきたハボックに、ロイは嫌そうに顔をしかめ、そこに置いておけ、とだけ指示して、また手元の書類に視線を落とす。
 ハボックは指示された通りに机の端に持ってきた書類を積み上げる。この時間でこの量なら、何とか定時には終わるだろう。ただし、この男が本気を出せば、だが。
 そして先程のエドワードの伝言を伝えようとして、ふとある事に気付き、ニヤリと笑う。室内に漂う、ほのかな甘い香り。
「―…大佐、さっきの飴、食いました?」
「食べてない」
 間髪入れず、即答が返る。
 その返答が自分でも不審だと思ったのだろう。ロイは、鋼のにやったんだ、と付け加えた。
「丁度、甘いものが欲しかったんだと言って喜んでいたからな。まあ、お前の買ってきたくだらんものも、少しは役に立って良かったな。ハボック」
 あくまでも不遜な口調でそんな事を言うロイに、ハボックはニヤニヤと笑う。
「――…何がおかしい」
「いいえぇ? あのですね大佐、鋼の大将から伝言です」
「鋼のが?」
 エドワードの名前が出た瞬間、あからさまに表情を変え、如実に反応を見せるロイに、ハボックはとうとう笑いを堪え切れなくなる。
「今日の夕飯、大将が奢ってくれるそうですよ。だから定時までには仕事を終わらせておけ、だそうです」
「は、鋼のが……?」
 ぱああ、と喜びに目を輝かせるロイに、ハボックはすかさず書類をずずい、とロイの前に押しやる。
「だから、とっとと仕事終わらせて下さいね」
「分かった」
 ロイはこの上もなく真剣な顔をして頷き、物凄い勢いで書類に目を通し始める。エドワードとの食事がかかっているのだから当然と言えば当然だが、実に現金だ。
 とりあえず、エドワードがロイ以外の人間を誘おうとする前に、根回しでもしておくべきだろう。可能であれば二人きりにしてやりたい。そこまでする義理はハボックには無い筈だが、たまには報われてもいいと思うのだ。連戦連勝だった筈のこの上司も、あの金色の子供相手には連敗続きなのだから。
 そして、執務室を出て行こうとしてふと振り返り、ロイに向かって尋ねる。
「ところで大佐」
「何だ」
「あの飴、何味でした?」
「ああ、いちご味だっ……」
 書類に視線を落としたまま正直に答えかけて、ロイはハッとしたように顔を上げる。そしてニヤニヤと笑っているハボックに、かあ、と頬を赤く染める。
「……っ、いいから、早く出て行け!」
 燃やされたいか!と怒鳴るロイに、ハボックはとっとと退出する。この上司はからかっても楽しいが、本気で怒らせると怖いのだ。
(――…それにしても)
 廊下を歩きながら、ハボックはふと首を傾げる。
「意外と侮れないのかもなあ……ああいうのって」
 今度自分用にも買ってきてみようか、と半ば真剣に考えつつ、ハボックは大きく伸びをした。




ていうか、大佐がエドにごはんに誘って貰えたのは明らかにハボックの功績だと思われます。
posted by 観済寺凪之介 at 17:27| 小話