2009年03月16日

今日が終わらないうちに早く

現代パラレルで、三十路目前サラリーマン×男子高校生。
特に厳密な設定とかあるわけじゃないんですが、まあそんな感じで。






「じゃ、本も借りたし帰るな。おやすみー」
 滞在時間はたったの五分。目的の本を渡すなり踵を返した薄情な恋人を、ロイは恨みがましそうな目で見つめた。
「折角来たんだから、せめてお茶ぐらい飲んでゆっくりしていけばいいのに」
 そう言ってこれみよがしに溜息をつくロイは、仕事帰りのスーツのままで、ネクタイを僅かに緩めただけの姿だ。その格好から察するに、週の始めから早々に残業だったのだろう。
「もう十一時だぜ? あんただって、今まで残業だったんだろ。オレだって明日は普通に授業あるし」
 時計を見ながらそんな事を言うエドワードに、ロイは無言で上着を脱いでネクタイを外す。
 確かに今日は月曜日で、週末はまだまだ遠い。明日の事を考えるのなら、さっさと風呂にでも入って眠るべきなのだろう。
 それは確かに正論なのだろうが、ロイは珍しく今日は人恋しい―…というか、エドワードが恋しい、ある理由があった。
「今日は私の誕生日なんだから、少しぐらい一緒にいてくれてもいいじゃないか」
「またあんたは、そういう見え透いた嘘―…」
 呆れたように返しかけて、エドワードは、ふと足を止める。
 慌てて振り返ると、ロイが何でもないような表情でネクタイを外すところだった。
「――…マジで?」
「うん?」
「今日、誕生日って……」
「本当だよ。疑うなら免許証でも見るかい?」
 ほら、と無造作に放り出された財布から免許証を抜き取ると、そこに記されているのは紛れもなく今日の日付で。
 エドワードはたっぷり十数秒間は硬直した後、勢い良く頭を下げた。
「……あの、ごめんっ!」
「は?」
「オレ、全然知らなくて……」
 いくら妙な縁で付き合い始めた歳の差実に十四歳の、しかも同性だとは言っても、仮にも恋人の誕生日を知らなかったとは如何なものか。
 しかも、冬だったエドワードの誕生日には、豪華な食事を奢って貰った記憶があるのに。
 後でロイの誕生日も聞きだして、その時には盛大に祝ってやろうと密かに決めていたのに、すっかり忘れて聞きそびれてしまった結果がこれだ。
「別に謝るような事じゃないだろう。話した覚えも無いんだし。私だって、仕事中にカレンダーを確認してようやく思い出したぐらいだし」
 ロイは笑って、ネクタイをソファーに放り出す。
「無理強いする気は無いが、せめてお茶でも飲んでいかないか? 帰りは車で家まで送るし」
「オレ、ちょっとコンビニ行ってくる!」
「は?」
 そう言うなり、勢い良く玄関から飛び出していったエドワードを追うべきかどうか少し悩んだ後、ロイはとりあえず着替えを続行する事に決めた。
 コンビニはマンションのすぐ目の前だし、貸した本を置いていっているからにはエドワードは戻ってくるつもりがあるのだろう。
 部屋着に着替え、とりあえずお茶でも入れるかとやかんを火にかける。それが音を立てて沸き始める頃、玄関の方で物音がして、エドワードが戻ってきた。
「お、お待たせ……」
「お帰り。……何をそんな息せき切ってるんだね、君は」
「あ、あのさ……これ、」
 そう言ってエドワードが差し出したコンビニの袋には、個包装の大福餅が二つ。
 それを認めて、思わずロイは目を丸くした。
 その反応をどう思ったのか、エドワードが慌てて言葉を付け足す。
「――…ホントはケーキ買ってこようと思ってたんだけど、売り切れてて。せめてカステラとか、ケーキっぽいのがいいかと思ったんだけどそれも無くて。ハーゲンダッツのアイスにしようかと思ったんだけど、最近夜とか寒いからと思ってやめて、でも肉まんとか変だし、」
 おろおろしたように色々と言葉を続けるエドワードに、ロイは思わず噴き出した。
「……笑うな」
 頬を赤く染めて、むう、とふくれるエドワードは、いつもの大人びた様子が無くて、年相応に可愛らしい。
「い、いや、済まない。大福は好きだよ、ありがとう」
 ここでキスしたら怒るだろうな、と思いながら、ロイはその頭を軽く撫でるだけに留める。
「――…ホントは、もっとちゃんと改めてやった方がいいんだろうけどさ」
「うん?」
「あんたの誕生日、今日だから。……今日のうちに、ちょっとでもお祝いしたい」
 その言葉に、ちょっと目を瞠って。
 少し、笑った。
「――…ありがとう」
 コンビニの袋を受け取り、エドワードの背中を軽く押して、ソファーに腰かけるように促す。
「一緒に食べようか。大福だから、ほうじ茶でも入れて」
「……おう」
 そして、温かいほうじ茶を二つのマグカップに注ぎ入れて、大福を片手に、乾杯の代わりにマグカップの縁をカチリと合わせて。
 今日が終わらないうちに、早く。

「誕生日、おめでと、な」
「ありがとう」

 祝福しよう。
 おたんじょうび。




何とか間に合った。…いや、何か普通に仕事して残業して帰ってきたら何か虚しかったので。何か誕生日っぽい事でもやってみるかと思いまして。そんなわけでセルフ誕生日記念。おめでとう私(笑)
多分この後、エドは週末辺りにまんまとロイの家に泊まりで遊びに来る事になって、まあ、アレでソレですよ。プレゼントは決まりですよ。
posted by 観済寺凪之介 at 23:39| 小話