2009年09月12日

君の名は。

今更ですが「鋼の」呼びについての萌え語り(携帯メール)より派生の小話です。
乙女大佐全開ですので要注意。


「大佐って、エドの事名前で呼ばないですよね」

 唐突にそんな事を言いだすハボックに、ロイは怪訝そうな表情で見返す。
「何だ、いきなり」
「や、だっていつも『鋼の』とか呼んでるじゃないですか。でも別に、国家錬金術師同士がそうやって呼び合う慣習があるわけでもないでしょ。だから何でわざわざ銘で呼ぶのかと思いまして」
 ハボックの疑問に、ロイは溜息を返した。
「別に深い意味は無い。彼の場合、名前よりも銘の方がインパクトが強くて、ついそっちで呼んでしまうというだけの話だ」
「はあ……そんなもんですか」
 一応は納得したような顔で退出していくハボックの背中を見送って、ロイは再び溜息をついて執務室の椅子に深く座り込んだ。
「……名前なんて、呼べるわけが無い」
 あの金色の子供を名前で呼んだが最後、自分自身の気持ちが透けて見えてしまうのは明白だ。
 上司として、そして保護者代わりとして、許されない想いを抱えている以上、万が一にもその想いを悟られる事があってはならない。
 もし、この想いが彼に知られてしまうような事があれば、もう今までのような関係ではいられない。
 嫌悪されるだけならまだしも、下手に気を遣われて、困った時にも、ロイの助けが必要な時にでも、今までのように気軽に頼ってきてはくれなくなるかもしれない。
 一刻も早くその目的を叶える必要がある彼の、彼らの手助けをする事。
 身近な大人として、いつでも助けてやれる距離でいる事。
 それが、この想いを自覚した時に、ロイが決意した事だった。
(名前、か)
 確かに呼んだ事は無いな、とロイは思う。公的な場であっても、国家錬金術師はその銘を呼ぶ事で事足りる。
 精々、書類に何度かその名を記した事がある程度だ。
「……………」
 ふと思いついて、傍らにあったメモに「エドワード・エルリック」と記してみる。
(――…良い名だ)
 あの金色の子供に相応しい響きを持つ名だと思う。もっとも、あの金色の子供の名だと思うからこそ、素晴らしい名前だと思うのかもしれないが。
 名前など単なる記号だと思っていた時期もあったが、今はこうして紙に記した彼の名でさえも愛しい。
 そして何気なく、その下に「ロイ・マスタング」と記してみる。
「……ふむ」
 悪くは無い名だと思う。エドワードの名前のすぐ下に記されている事が、自分で書いておきながら何となく気恥ずかしい。
 しかし何となく、更にその下に「エドワード・マスタング」と記してみる。
「……………」
 その字面のあまりのインパクトに、自分でやった事ながら、つい恥ずかしくなって頬を赤らめる。
 何歳だ私は、と言うかどこの乙女だ、と自分で自分に突っ込みを入れながらも、ペン先は続けて更に別の名を綴る。
「…………………」
 「ロイ・エルリック」というそれは、少なくとも先程よりは語呂が良いような気がする。悪くは無い。しかし盛大に恥ずかしい。
(妙な事をやってしまった……)
 あまりの破壊力に、自分で書いておきながらメモが正視できない。
 こんなものをそのままゴミ箱に捨てるわけにはいかない。誰かに見られでもしたら、いい笑い者だ。後で念入りに燃やしておこうと決めて、とりあえずポケットの中に入れる。
 書類でパタパタと顔を扇いで、ようやく赤みが引いた頃にノックが響いた。
「入れ」
 ホークアイかハボック辺りだろうと思って応じたが、顔を見せたのは意外な人物だった。
「よ、久しぶり」
「――…鋼の」
 思いがけない訪問者に、ロイは目を丸くする。今のいままでやっていた事がやっていた事だけに、酷く動揺してしまうそうになるのを必死で堪える。
「資料室の鍵借りようと思ってさ。総務に行ったら大佐が持ってるっていうから」
「あ、そ、そうか。……済まない」
 そう言えば確かに持ち出しっぱなしだったと思い至って、ロイは慌ててポケットを探る。
 指先に当たった金属の感触に、それを摘んで引き出した。
「鋼の、あったぞ。ほら……」
 そう言いながら出そうとした瞬間、ポケットに入れておいたメモが一緒にひらりと舞い落ちる。
(しまった……!)
 慌てて拾おうとするが、時すでに遅し。そのメモを摘んで拾い上げたエドワードが、何気なくその文面に目を走らせて、驚いたように目を瞠る。
「大佐、これ……」
「ち、違うんだ鋼の! これはその、つまり、ええと……」
 泣きそうな気分で言い訳を試みるが、何も言葉が出てこない。
 いつもなら口八丁で乗り切るロイだが、自分の名前と相手の名前を合わせて書くなどというような、恋する乙女のようなものを見られてしまった以上、何も言い訳が浮かばない。せめて名前だけであれば、何かの書類に記入する前に書いてみて綴りを確認したとか、何とでも言いようがあるのに。
「……………」
 エドワードはしばらくじっと、青くなったり赤くなったりするロイを見つめていたが、やがてふっとその表情を和らげた。
「ロイ・エルリックの方が語呂がいいよな」
「………え」
 メモに視線を落としながら、エドワードが笑う。
「エドワード・マスタングとかって語呂悪すぎ。濁点多いせいかもな。そう思わねえ?」
「あ、ああ……そうだな」
 エドワードの言葉に、ロイはつい素直に頷く。確かにそれは少々語呂が悪いとロイも思う。
 しかし、それに続くエドワードの言葉は、ロイの予想を遥かに超えるものだった。
「じゃあ大佐、オレのとこに嫁に来る?」
「は………?」
 思いがけなさすぎる言葉に、ぽかんとしたまま間抜けな顔をするロイに、エドワードは楽しげに笑った。
「アルの事元に戻してからだから、ちょっと先の事になると思うけど」
「……………!」
 その言葉の意味をようやく理解して、ロイは耳まで真っ赤になる。
 そんなロイを楽しげに見やって、エドワードはまた笑った。





元ネタはコナミキイチ様です。ありがとうございましたー!
いやあ「鋼の」呼びについての萌えを携帯メールでやりとりさせて頂いてたところで、私が

メモにエドワード・マスタングとかロイ・エルリックとか書いて『なんちゃってなんちゃってー!!!!』とかじたばたする乙女大佐。すいません普通にキモいです」
と言い出したところ、
「隠していたメモを見つけた兄さんにサラッと『ロイ・エルリックの方がゴロがいいな』とか言われて真っ赤になると良いと思います」
と返信されて思わずヒートアップ。
それってつまり「嫁に来い」って事ですよね?!(超拡大解釈)何て男前な兄さん!!!と大変に鼻息荒く「書いても良いですかー!?」と言いだした凪之介に快く許可を下さったので書いてみました。
しかし、メモにエドの名前を書く大佐ってのは前にも書いた事あるんですが、同じようなネタでも180度違う方向になりますね(笑)
(2007年冬コミ発行『Phonetic code』という本で書きました。アレで私は自分の中のシリアス成分を使いきった気がします…)

いや、それにしてもいつも思うのですが、萌え語りって相手がいてこそ更に萌えて燃え上がりますよねホント。
コナミキイチ様、ありがとうございましたー!!!!
posted by 観済寺凪之介 at 21:03| 小話