2010年04月01日

エイプリル・フールを過ぎてから

エイプリル・フール小話。
内容は続きから。



「大佐、中尉が怒ってたぜ」
「は……?」
 唐突にエドワードに言われた言葉に、ロイは思わず動きを止める。
「お、怒っていた、とは……?」
 あの事だろうかこの事だろうかと、ロイの頭の中を心当たりの事項がぐるぐると回りだす。
「うーん、詳しくは言ってなかったけど、あのサボリ魔とか何とか……」
「もしかしてこの前、中尉が半休だったのをいいことに、仕事をさぼって散歩に出た件か!?」
「そうなんじゃねえ? 銃の手入れしながら、『照準はきちんと合わせておかないと。…いえ、むしろ照準が合っていなかった方が、手元が狂った時の言い訳になるかしら?』って。目が笑ってなかったぜ。ちゃんと謝っとけよ」
「わ、分かった…とりあえず、中尉の好きなケーキでも買いにいくべきだろうか……」
 途端にオロオロと狼狽えだしたロイに、神妙な顔で忠告していたエドワードが途端に吹き出した。
「……鋼の?」
「―…だ、ダメだ。もう無理……! 大佐、こんな嘘あっさり信じるなんて、どんだけサボってんだよ?」
「嘘……」
 そこでロイはカレンダーを見て、ようやく今日の日付に気付いた。
 四月一日。――…エイプリル・フール。
「君ね……」
「あっさり騙されるんだもんなー。単純すぎ」
「信憑性のある嘘は止めたまえ。タチの悪い」
「信憑性があると思う程、普段の行いが悪い大佐が悪いんだろ? ……そうだ、なら大佐も何か嘘ついてみろよ」
 ニヤニヤしながらそんな事を言うエドワードに、ロイはしばし黙り込み――…やがて、にっこりと微笑んだ。
「鋼の。君は、とても可愛いな」
「………は?」
「黄金を紡いだような髪、白磁の頬。蜂蜜色の瞳、そして甘い果実のような唇―…君は美しい……」
 うっとりと囁くロイに、エドワードはあからさまに身体を引き、ロイから距離を置く。
「た、大佐? 頭おかしくなったのか?」
「おや、君が言えと言ったんじゃないか。エイプリル・フールの嘘をついてみろと」
 にこりと笑うロイに、エドワードは目を白黒させながらも納得して頷く。
「あ、ああ、そっか、エイプリル・フール……」
「私は君のその気性も好きだよ。真っ直ぐで、雄々しくて、弟思いで。とても格好良くて男前なのに、見た目はこんなに可愛らしいなんて反則だよ。世界の至宝すぎるにも程があるとはこの事だ」
「あ、う……」
 最早何と応じていいのか分からないらしいエドワードが、それでも逃げ出す事が出来ずに歯の浮くようなロイの賛辞を受けている。
「鋼の。本当は、ずっと前から君の事を愛していた。本気だ」
「え、ええ!?」
「私の恋人になってくれ。絶対に大切にする」
「う、嘘……なんだよな?」
 そう言いながらも、耳まで真っ赤に染まっているのが可愛らしくて、ロイはまた笑う。
「ひどいな。私は真剣なのに」
「え、エイプリルフールなんだろ!?」
「いや。これは私の本心だよ。エイプリルフールにかこつけて、君に告白しているだけだ」
「こ、くはく……」
 エドワードの顔がますます赤くなる。
「鋼の。……いや、エドワード。私は真剣だよ。君の返事をくれないか」
「……………」
 湯気が上がりそうな程赤くなって、エドワードが黙り込む。混乱しているのが手に取るように分かったが、ロイにはここで引く気など微塵も無い。
「……エドワード?」
「きょっ、今日はこの位で勘弁してやる! 許可証は明日取りに来るからちゃんと作っとけよ!」
 そう宣言し、エドワードは猛ダッシュで部屋の外に駆け出していってしまう。
 あまりに鮮やかな逃げっぷりに、ロイは呆気に取られてそれを見送った。
「……やれやれ」
 逃げられたのはまあ仕方がない。明日また来ると言っているのだから、チャンスはまだある。
(明日、同じ台詞を言ったら、どう答えるかな)
 明日。エイプリルフールを過ぎてから。
 それは、もう嘘をついてはいけない日。伝えて良いのは真実のみ。
 そう考えるとどうにも楽しくて、ロイは鼻歌を歌いながら仕事を再開した。



もう少し手直ししてから後で収納します。とりあえず今日中に!(笑)
posted by 観済寺凪之介 at 22:54| 小話