2012年05月10日

番外編

短いですが「パラレルワールドツアー」(パラレルプチアンソロ)で書かせて頂いたものの番外編です。読んでいらっしゃらない方にはよく分からないネタかと思いますが。
収納するのをすっかり忘れていたので一応…。





「お前、それは恋だな」
 学生時代からの付き合いで親友とも言えなくない、しかしむしろここは腐れ縁と表現したい――…ヒューズにそう断言されて、ロイはがっくりと項垂れた。
「やっぱり……お前もそう思うか?」
「思うな。自覚が無いとは言わせねえぞ、ロイ。お前だってホントは気付いてんだろ? 今更初恋ってわけでもないんだろうし」
 うずらベーコンを串から外しながら、ヒューズが呆れたようにそんな事を言う。
「そうだな、まあ……自分でもそうだろうなと思うんだが、認めたくないというか……」
 ロイはどこか遠い目をしながら、焼酎のグラスを口に運ぶ。安酒だが、気楽に飲む分には悪くは無い。一気に呷ると、グラスの中の氷がカラリと音を立てた。
 焼き鳥屋のチェーン店は、安くて上手くてボリュームもあるという事で人気がある。今日のように週末などはカウンターもテーブルも座敷も満席だ。今日は座敷は満席になっているらしく、時折、どっと明るい笑い声が響いてくる。あまり人に聞かれたくない話をする時は、逆にこういう店の方が都合が良いのだ。――…いい歳をして、片恋に悩んでいるという話など。
「でも、お前らしくないな。悩んでるくらいなら、告白してみたらどうだ。本の貸し借り口実に、頻繁に会ってるんだろ?」
「いや、まあ……そうなんだが」
 片恋の相手は、近所に住む中学生で、しかも男の子で、更にヒューズの教え子である。流石にその辺りを正直に打ち明けるのは躊躇われて、ロイは適当に誤魔化して片恋の相手の事を打ち明けている。
 告白が出来るような相手なら、そもそも最初から悩んでいない。ロイと年齢が釣り合うような妙齢の女性で、相手に恋人がいないのなら躊躇う要因は無い。しかし、相手が十四も年下の、しかも近所に住んでいる男子中学生とくれば、躊躇うどころの話ではない。下手をすれば性犯罪者として通報されかねない。
 それに、告白を躊躇う理由は、他にもあった。
「――…今までの関係を壊したくない、というか……」
「そりゃ言い訳だな。単に失恋が怖いだけだ」
 ずばりと言い切られて、ロイはカウンターに撃沈する。――…確かに、失恋は怖い。正直に告白して、もし気持ち悪がられたらと思うと踏み切れない。あの金色の子供に軽蔑されるなど、考えただけで死にたくなってくる。もう二度とロイの家には来なくなるだろうし、あの屈託の無い笑顔を見せてくれる事も無くなってしまう。
「……そうだな。怖いんだろうな、私は」
 そう言って、手つかずだったつくねを頬張る。味はいかにもチェーン店の量産品といった感じではあるのだが、これが妙に美味い。炭火でカリっと焼きあげているせいなのかもしれない。
「正直に告白して、振られるのが怖いんだ。……でも、ずっと黙っておくのも、正直に言えば辛いな」
 何しろ相手は中学生だ。まだそんな気配は無いようだが、いつ「彼女が出来た」などとと報告されてしまうのではないかと、内心で戦々恐々としているのだ。
 あの子は背丈こそ標準より低めだが、性格は真っ直ぐで男前だし、見た目もアイドル顔負けに可愛らしい。将来はきっと男前に育つだろう。同年代の女の子にもてない筈が無い。
「珍しいよな、お前がなあ……恋愛の事で悩むなんて」
 まあ、飲め飲め、と言って、ヒューズが熱燗用の猪口に酒を注いでくる。既に温くなりかけてはいたが、ロイはありがたくそれを受けた。
 告白する勇気も、今の状況を継続出来る忍耐も無い。身動きの取れない八方ふさがりの状態だ。しかしこうして、愚痴を聞いてくれる友人がいるだけでありがたい。杯を干しながら、ロイはしみじみとそんな事を考える。
「しかしまあ、アレだ。……お前、告白だけならまだしも、手を出すなら義務教育住んでからにしろよ。エドはまだ中学生なんだからな」
 さらりと言われたそんな台詞に、ロイは目を剥いた。
「――…ヒューズ……?」
「いや、オレは何にも言ってないぞ。なーんにも聞いて無いしな」
 そう言って、ヒューズはにんまりと笑ってみせる。
「まあ、飲め飲め」
「…………………」
 自分の態度はそんなに分かりやすいものなのだろうか、と悩みながらも、ロイは素直にその盃を受けた。
posted by 観済寺凪之介 at 07:28| 小話