2013年02月04日

泣かせてみたい(注:エド×ロイです)

考えてみればエドロイのカテゴリを作っていなかったので、とりあえずブログにアップしときます。
後日ちゃんと作っておきますorz

大丈夫な方のみ、続きからどうぞー。









「オレ、あんたの事泣かせてみたいかも」
 他愛のない会話の合間。ぽつりと零された言葉に思考が止まる。
 しかし、そんな言葉を口にした子供は、何でもないような表情で、これから予定があるからと執務室を出ていった。
 どういう意味なのかと問いかけようとしていた言葉は口に出せないままに終わって、ロイは軽く息を吐いて椅子の背もたれに身を預ける。
(泣かせてみたい、か)
 それはつまり、ロイの泣きっ面を見てやりたいだとか、そういう意味なのだろうか。
 しかし、それにしては、やけに淡々とした口調と態度だった。あの子供の性格からすると、怒る時は、もっとストレートに怒るだろう。あの表情からして、ロイに対して怒っているだとか、腹に据えかねている事があるだとか、そんな事があるようには思えなかった。
 不可解な発言ではあったが、考えていても答えが出るわけでもなく、頭を振って気分を切り替える。
 しかし何故か不思議と、彼のその言葉だけが耳にいつまでも残っていた。



 次にエドワードから連絡があったのは、数日後の夕方の事だった。
 先日顔を出したばかりなのに珍しい、と首を傾げながら受話器を取ると、少し慌てたような声が耳に飛び込んでくる。
『なあ、今いるとこ、窓ある? 外、見えるか?』
「外?」
 電話を受けたのは、いつものロイの執務室だ。背後にある大きな窓を振り返ると、薄曇りの空が広がっていた。昼まで晴れていたのだが、今夜から雨になる予報だと聞いている。
「見えるが、外がどうしたのか?」
『夕焼け、凄くねえ?』
 一瞬、その言葉の意味を理解出来なくて、何度か瞬きをする。そしてようやく、その言葉の意味に思い至った。
「そうか、君のいるところでは綺麗なんだな。生憎と、こちらは曇っているんだ」
 小国とは言え、アメストリスは広い。各地で天気が違っていてもおかしくはない。きっと、エドワードのいる場所は晴れているのだろう。
 エドワードの言う『綺麗な夕焼け』が見られないのは少し残念だったが、彼が今目にしているであろう光景に思いを馳せると、不思議と心が穏やかになった。
 今、この場所では雲に覆い隠されて見る事の出来ない夕焼けを、彼は今、この世界のどこかで見ているのだ。
『――…そっか』
 少し落胆したような声。彼がこんな声を出す事は珍しいような気がして、内心で少し慌ててしまう。
「それより鋼の、何か用があったんじゃないのか?」
『いや、いい。……悪かったな、忙しいとこ邪魔して』
「いや、別に忙しかったわけでは、」
 言いかけたところで、通話が途切れる。何なんだ、と口の中で呟いて、受話器を置く。
 何が用事があったからこそ電話をかけてきたのだろうに、用件も言わずに切ってしまうというのが、ますます彼らしくない。まさか、夕焼けが綺麗だからという理由で掛けてきたわけではないだろう。
「…………………」
 そこまで考えて、ペンを握りかけた手を止める。
(まさか、な……)
 あのエドワードが、夕焼けが綺麗だからというだけで、ロイに電話を掛けてくるはずがない。エドワードはそんな繊細な情緒を解するような性格ではないし、ロイに対してそんな事をするのもおかしい。夕日が綺麗だから電話してみました、なんて真似は、あの幼馴染の可愛らしい少女相手にやっていればいいのだ。
「どうかしましたか? エドワード君が何か?」
 ロイの表情に気付いたのか、ホークアイが問いかけてくる。
「ああ、実は――…」
 夕焼けが綺麗だから電話してきたらしい、と笑いながら話そうとして、言葉が止まる。
「――…いや、何でもない」
「は?」
 笑い話にしてやろうと思ったのに、どうしてか、それを口に出して言うのは憚られた。
 ロイはもう一度、窓の外の空を振り仰ぐ。そこは相変わらず曇ってはいたが、ほんの僅か、雲の隙間から夕焼けの橙色の光が洩れたような気もした。




「大佐、仮眠しなくていいんですか?」
 ハボックのその言葉に、ロイはペンを走らせる手を止め、顔を上げて時計を見た。気が付けば、もうそろそろ夜明けが近い。
「ああ。……そうだな、私はいいから、お前は寝ておけ。そのまま日勤の予定だろう」
「え、いいんですか?」
「私は夜勤が明けたら休みだからな。呼び出されないように仕事を済ませておく事にする」
 書類の残りを確認しながら、ロイはそう応じる。妙な話ではあるが、昼間よりも夜勤の時間帯の方が書類仕事が捗るのだ。事件の無い日なら、夜間は人が少なくて静かなせいかもしれない。
「そうですか? じゃ、ありがたく」
 ロイの勧めに、ハボックは頷いて司令室を出ていく。まだ日勤の軍人たちが出勤してくるのには早い時間帯だ。しんと静まり返った司令室には、時計の秒針が動く音だけが響いている。
 きりのいいところまで書類仕事を終えて、椅子から立ち上がって伸びをする。珈琲でも淹れるかと思ったところで、廊下から微かに響く足音に気付いた。軍人の足音とは違う、どこか密やかな、聞き覚えのある足音。
 ひょこ、と扉から顔を覗かせたのは、ロイの予想通りの人物だった。
「……鋼の?」
「――…おはよ」
「あ、ああ……おはよう」
 至極真っ当な筈なのに、何故か妙な気がしてしまう朝の挨拶を交わしてから、ようやく今の時刻が明け方に近いのだと気付く。
「何かあったのか? こんな朝早くに」
 もし何か用があるにしても、司令部に顔を出すのは早すぎる時間帯だ。いつも一緒にいるアルフォンスの姿が見えないのも気にかかる。何か非常事態でも起こったのかと心配になったが、エドワードはあっさりと首を横に振った。
「なあ、ちょっと時間貰えないか? 十分位でいいから」
「それは構わないが……」
 仕事は済ませてあるし、何か事件が起こっているわけでもない。元々、珈琲でも淹れて休憩しようと思っていたのだから、その程度は問題無かった。
「じゃあ、ちょっと上に行こう」
「上?」
「屋上」
 端的に答えて、エドワードはくるりと踵を返し、廊下を歩き出す。その後を、ロイは慌てて追った。
「屋上なんかに、何をしにいくんだ?」
 まさか、いつぞやの中央での練兵場での決闘騒ぎの再戦でもする気かと思ったが、それならば屋上などという場所は選ばないだろう。人間兵器とも呼ばれる国家錬金術師、しかも武闘派のロイとエドワードが闘えば周囲の被害は甚大なものになるだろう。そもそも、以前の時も練兵場を元に戻す後始末の方が大変だったのだ。
「ん、ちょっと。……今日は多分、いいんじゃないかと思うから」
「いい?」
 何がいいのかと首を傾げたが、エドワードは答える気が無いらしい。少し前を歩くエドワードを追って、ロイは足を進める。
 手を伸ばせば届く距離にある、その小さな背中を眺めていると、何だか不思議な気分になる。思えば、エドワードの背中を見る事はあまり無いように思う。いつだって真正面から、まるで挑むようにロイを見据えるのが、この金色の子供の常だった。
 先に立って階段を昇っていく背中は、相変わらず小柄ながらもしっかりとしてきていて、もう出会ったばかりの頃のような、子供らしい、華奢な姿ではなくなってきている。
 いつの間にか、子供は成長しているものだなあと、まるで親のような感慨深い気持ちになる。そう言えば、冬生まれだった筈だから、もう誕生日を迎えたのだろう。まだまだ子供と言える年齢ではあるが、そのうちすぐに、子供だとは言えなくなる時が来るのだろう。
「そろそろ、いいと思うんだけど」
 屋上へと通じる扉を開きながら、エドワードは半ば独り言のように、そう呟く。
 何が『いい』のかと再び尋ねようとして、ロイは目の前に広がる光景に言葉を失った。
 それは、いっそ壮大だと言ってもいいような、美しい朝焼けだった。
 群青の空の裾野から、少しずつ太陽の光が空と雲とを橙色に染め上げてゆく。たなびく雲は太陽の色を映して、その色を刻々と変えている。
 不意に、その雲の隙間から、一条の光が差した。その光が、真っ直ぐにロイを照らす。その光の眩しさに目を細めて、その光を――…温かいと、思った。
 ほとほとと頬を濡らす感触に、初めて自分が涙を流している事に気付いた。エドワードの前で涙を流しているというのに、何故かそれを、恥ずかしいとは思わなかった。
 指先で涙を拭い、傍らに立つエドワードに向き直った。
「――…何故、これを私に?」
「綺麗だったから。だから、あんたに見せたかった」
 真っ直ぐにロイを見つめながら、エドワードはそう答えた。その言葉には嘘も偽りも虚飾も無く、ただ真っ直ぐに、ロイの胸に響く。
「そうか。……ありがとう」
 ロイの言葉に、エドワードが笑う。その笑顔に、ロイもつられて笑った。
「良かった。……あんたさ、泣きそうな顔してるのに、いつも泣かないから」
 そんな事を言われて、思わず返す言葉に詰まる。そんな顔をしていたつもりはないし、もしそうだったとしても、エドワードに気取られる程だったとしたら情けない事この上無い。
 でも言われてみれば、最後にこんな風に素直に泣いたのは、いつ以来だっただろうか。
「旅先でさ、綺麗な風景とか見るだろ。そしたら、大佐に見せたくなる。一緒に見たくなる。……泣いたとことか、笑ったとことか、いつもと違う顔も見たくなる」
 まるで愛の告白のような言葉だなと思って、それから、それ以外に受け取りようがない言葉だと気付く。
「君、それは――…」
 そこでようやく、ロイは気付く。エドワードの頬や耳が赤いのは、朝焼けのせいだけではない事に。
「……あんたって、こ、こういうの慣れてるんだろ。察しろよ。百戦錬磨だって聞いたぞ」
 赤い顔で睨みつけられても迫力が無い上に、口にしている台詞は矛盾しているとしか言いようがない。思わず笑い出しそうになるのを堪えて、わざとらしいほどに芝居がかった口調で応じた。
「人聞きの悪い。私は別に、慣れているわけではないよ」
「嘘つけ」
 即答で否定されて、内心で少し傷つく。成程、どうやら自分は彼に、こういった方面については信用されていないらしい。
「本当だよ」
 言葉を足してみても、拗ねたような瞳が、こっちを見ている。可愛いな、と思って、また嬉しくなる。
「初めてなんだ。――…こんな気持ちになったのは」
 心に浮かんだ言葉をそのままに告げると、琥珀色の瞳が大きく見開かれる。
「そ、れって、」
「うん?」
「ど……どういう意味だよ?」
 問いかけてくる瞳には、期待の色が浮かんでいるのが分かる。しかしここはあえて、はぐらかしてやるのが定石だろう。
「さあ? 君がはっきり言ってくれないと、私も分からないなあ」
「あ……のなあ!」
「だって、そうじゃないか。自分では何も言っていないくせに、相手に返事だけさせようとするのは卑怯じゃないか?」
 そう言ってちらりと横目で視線を向けると、ぐっと詰まったように何とも複雑そうな顔をしている。
 本当は、ここで「嬉しいよ」だとか「私もだよ」と言ってやれば、もっと話は早いのだろう。そういう展開になる事についての異存は全く無いが、ここで甘やかしては後々の為にならない。彼の性格上、こういう事が言いづらいのは分かるが、はっきりと言質を取っておかないと後々こちらが不利だ。
「――…えっと、」
「うん?」
「だ、だからだな、その、」
 言いよどむ姿はいつもの彼らしくなくて、何だかおかしい。
「そうしているうちに、日が高くなってしまうよ、鋼の」
「………うるさい」
 もう何を言いたいのか、何を伝えたいのかはお互い分かり切っているのに、決定的な一言を口に出すのは勇気がいるらしい。だから、だとか、ええと、だとか、そんな言葉を繰り返す姿がどうにも可愛くて、思わず助け船を出してしまう。
「じゃあ、こうしよう。……私は、夜勤が明けたら休みなんだ」
「うん……?」
「だから、一日、君に時間をあげよう。今日中に言ってくれれば、私もきちんと返事をしよう」
「――…もし、今日中に言わなかったら?」
「さて、どうしようかな」
 もし言えなかったところでどうこうするつもりは無いのだが、そんな風にはぐらかして笑ってみせる。
「でも取りあえず、一緒に朝食でもどうかな。そろそろ、食堂の開く時間だ」
「――…一緒に?」
 尋ねてくる声音には、まだ戸惑いがあって、それすらも何だか嬉しい。
「そう、一緒に」
 差し出された手を取って、ロイは笑ってみせた。



安定のちゅーすらしないエドロイ(笑)
posted by 観済寺凪之介 at 23:48| 小話