2013年02月16日

バレンタイン2(エドside)

友達にエドサイドも見たい!と言われたので。
続きからどうぞー。


 エドワードが柄にもなく、バレンタインにロイにチョコレートを渡そう、と思い至ったのは、たまたま訪れたセントラルシティで、ある菓子店が妙な賑わいを見せていたのが切っ掛け

だった。
 店は中も外も盛大に飾り付けられ、楽しげに買い物をする女性客で溢れている。確か味の定評のある老舗店だと聞いた事があったが、こんなにも混雑している光景は初めて見た気がす

る。
「何だあれ。安売りでもしてんのか?」
 思わずそんな疑問を口に出したエドワードに、アルフォンスが呆れたような視線を向ける。
「何言ってんの兄さん。バレンタインでしょ、もうすぐ」
 だからモテないんだよ、と余計な事を付け足されて、うるさい、と軽く蹴りを入れる真似をする。
「……女の人ばっかりだな」
「そうだね。あ、でも最近は、男性から女性に贈ってもいいんだって。……いいなあ。ボクも買って来ようかな」
「いいなあって、誰にやるんだよ?」
「決まってるでしょ、ウィンリィだよ!」
「お前もホントに物好きって言うか、マメって言うか……じゃあ買ってこいよ。待っててやるから」
 財布を手渡すと、アルフォンスは喜び勇んで頷く。
「じゃあ買ってくるね! ええと、じゃあウィンリィと、ピナコばっちゃんと、二つかな」
 その言葉に頷きかけて、エドワードは、いや、と言葉を付け足した。
「あと、余計に二つ買ってこい」
「え、誰に?」
「ホークアイ中尉だよ。世話になってるだろ?」
「あと一つは?」
「予備だ予備。余ったらオレが食う」
「ふうん?」
 何故か妙な含み笑いをして、じゃあ行ってくるね、と言い置いて、アルフォンスは店内に入っていく。そして女性だらけの店内をものともせずに、店員お勧めだというチョコレートを

幾つか買って戻ってきた。
「はい。じゃあこれとこれ。同じの二つ買ってきたから、ホークアイ中尉に宜しくね」
「……おう」
 もしかして見抜かれているのかとも思ったが、アルフォンスがそれ以上追求してくる事はなかった。
 それぞれに分担して渡しに行こうと相談をまとめ、久しぶりに別行動を取る事にする。渡し終わったらまたイーストシティで合流しようという事になり、アルフォンスは一足早く車上

の人となった。
 エドワードはそれを見送って、少し躊躇いながらも公衆電話に向かう。慣れた番号を押してコードと名前を名乗ると、ホークアイが出た。
 報告書を渡しに行きたいという事を手短かに用件を伝えると、ロイの予定を確認し、喜んで承諾してくれた。
『大佐も、あなたが来るのをいつも楽しみにしているのよ』
 そんな言葉を、単なる社交辞令だと自らに言い聞かせながらも、勝手に胸の鼓動が速くなる。
 気が付けば、十四も歳上の、しかも同性であるロイに恋をしていた。自覚して認めるまでには様々な葛藤があったが、好きになってしまったものは仕方が無い。忘れようとしても忘れ

られなければ、ただ想い続けるしかないではないか。
 しかし、ただ想い続けるというのは、思っていたよりも大変な事だった。たまに二人きりになる瞬間や、社交辞令であろう食事やお茶の誘い。そんな瞬間に、自分の気持ちが抑えら 

れなくなってしまいそうな時がある。好きなのだと、親愛ではなく、恋愛という意味で見ているのだと、そう告げてしまいたくなる。
 しかし、そう伝えたところで、上手くいく筈が無いのは分かり切っている。何しろ、女性好きのタラシとして名高いロイの事だ。十四も年下の同性の少年を、そういう意味で見られる

筈が無い。女ったらしだと揶揄されながらも、実は誠実な人柄だと分かっているから、笑ったり、軽蔑される事は無いだろう。……無い、と思いたい。しかし、結局は丁重に断ってくれ

るというだけで、結果は同じ事だ。
 それだったら、いっそ盛大に玉砕してやろうと腹を決めたのだ。バレンタインともなれば、告白する機会としても丁度いい。結果として振られる事は分かり切っていても、せめてこの

気持ちとしてのチョコレートを受け取って貰えれば、少しはこの気持ちの持っていきどころがあるような気がした。
 しかし、実際のところは、何度もシミュレーションしたものとは違う展開になってしまった。
 執務室で二人きりになり、報告も終え、さてどうやって切り出そうと思案していた時に、エドワードが手にしていたロイに渡す為のチョコレートの袋に気付いたのか、ロイがそれは何

かと問いかけてきたのだ。
「え、ああ……チョコレートだよ」
 緊張のあまりに、どうにも素っ気ない返事になってしまったが、これはいい切欠だとエドワードは内心で思う。しかし、ロイは笑顔のままで、続けて問いかけてきた。
「貰ったのか?」
「え? ああ……うん」
 自分で買ったのではなく、アルフォンスに「買って貰った」のだから、それでも間違いではないだろう。
「可愛い子か? 君も中々隅に置けないな」
「まあ……可愛いんじゃねえの」
 アルフォンスは今でこそ鎧姿ではあるが、母親のトリシャ似の可愛らしい顔立ちだ。可愛いと言っても間違いではないだろう。しかしそう答えてから、エドワードはようやく自分の勘

違いに気付いた。
(――…あ)
 もしかしなくても、ロイはエドワードが持ってきたチョコレートを、どこか他の誰かに貰ったものだと勘違いしたのだろう。
 しかし一度肯定してしまった事を訂正するのも妙な話で、どうしよう、と悩みながらも、そのまま他の話題に切り替わっていくのに、エドワードはどこか上の空で応じる。
 その後、ロイとどんな話をしたのか、エドワードはもうよく覚えてはいなかった。




(……そろそろ、いいか)
 夕刻に差し掛かろうとしている時刻を確認して、エドワードはホテルの部屋にある受話器を手に取った。結局、渡し損ねたチョコレートをどうしていいのか考えあぐねて、姑息だとは

思ったが、忘れ物を装う事にしたのだ。すぐにロイに見つかったりはしないように、クッションの下に隠したのだから、まだ見つけていないかもしれない。
 東方司令部に電話をかけ、ロイを呼び出すと、電話はすぐに繋がった。そして出来るだけ自然に聞こえるような口調を心がけて、チョコレートを忘れた事、面倒だからロイが食べてく

れて構わない事を告げる。ロイは意外と甘党だから、セントラルの有名菓子店のチョコレートとなれば、呆れながらも食べてくれるに違いない。
 しかし、ロイの反応は意外なものだった。
『これは、君が貰ったチョコレートだろう。しかも、バレンタインの』
「まあ……そうだけど」
『誰に貰ったのか知らないが、これは君の事を思って、誰かが用意してくれたチョコレートだ。だから、きちんと君が自分で食べたまえ』
 今から来なさい、と意外な程の剣幕で叱られて、エドワードは渋々それを承諾する。しかし、考えてみれば、ロイの反応も当然と言えば当然の事だろう。ロイはあのチョコレートが単

なる忘れ物ではなく、どこかの誰かがエドワードの為に選んだチョコレートだと思っているのだ。単なる女性好きだというだけではなく、誠実なロイの事だ。そのような事は許しがたい

行為であるに違いない。
「………失敗した」
 嘘をつくつもりではなかったのに、結果的に嘘をついてしまった。それを誤魔化そうとした結果が、結局これだ。
 最初から正直に、このチョコレートがロイ宛のものである事、アルフォンスが買ったものではあるが、エドワードからのチョコレートだと、伝えておけば良かった。
 結局は、告白する事も出来ず、潔く玉砕する事も出来ず、ロイを怒らせてしまうだけの結果になってしまった。
 重い足を引きずって、東方司令部に向かう。せめて、と思って途中のコーヒーショップでカフェラテを買った。一緒に食べようという提案なら無下にはされないと思ったのだ。
 ロイは気が進まないようではあったが、渋々といった様子でチョコレートを食べるのを手伝ってくれる。元々、一人で一気に食べるには多い量だ。荷物になるというエドワードの言葉

を素直に受け取ってくれたのだろう。
「あのさ。……美味い?」
 何故か憮然とした表情でチョコレートを食べているロイに、思わず問いかける。ややあって、少しだけ表情を緩めて、ロイが応えてくれた。
「……美味しいよ」
「そっか」
 その言葉だけで、今回は良しとしよう、とエドワードは心の中で呟く。
 最初は味が分からなかったチョコレートも、ロイのその言葉だけで、随分と美味しく感じられる気がした。




 チョコレートを食べ終え、エドワードは東方司令部を出た。告白する事は結局叶わなかったが、ロイと二人でバレンタイン・デイにチョコレートを食べられたのだから、なかなかいい

思い出ではないだろうか、と自分で自分に言い聞かせる。とりあえず、形はどうあれ、ロイはエドワードからのチョコレートを食べてくれたのだ。それだけでも充分だ。
 夕飯時ではあるが、胃が、というよりも、胸がいっぱいで、どうにも食欲が湧かない。このままホテルに戻って寝てしまおうと考えをまとめたところで、後ろから不意に腕を掴まれた


「鋼の!」
「……何だよ。どうしたんだよ、大佐」
 つい先程まで顔を合わせていたロイが、エドワードの腕を強く掴んでいる。余程急いで走ってきたのか、ロイの呼吸が乱れている。
「ちょっと、こっちに来てくれ」
 そう言って、ロイが中庭の方にエドワードを連れていく。何が何だか分からないままに、エドワードはそのまま腕を引かれるままについていった。掴まれたままの腕からロイの体温を

感じて、エドワードは密かに赤くなる。滅多に無いロイとの接触に、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。
 人けの無い中庭に着いて、ロイは周囲をぐるりと見回して誰もいない事を確認する。そして、手に持っていた包みを、エドワードに差し出した。
「君に、これを」
「え………」
 差し出された包みに、エドワードは戸惑う。手のひらに乗るくらいの小さな包みは、エドワードも知っているイーストシティにある菓子店のものだ。
「チョコレートだ。これを、君に」
「え、チョコ? 何で……オレに?」
 どうしてロイがエドワードにチョコレートをくれるのか分からずに、思わず問い返す。もしかして、さっきエドワードと一緒に食べたチョコレートの礼のつもりなのだろうか。しかし

、もしそうだとしたら、わざわざ追いかけてきた意味が分からない。
 まさか、と心の中にふっと浮かんだ考えを、慌てて打ち消す。バレンタイン・デイにチョコレートをくれるというのなら、もしかして、それは。
「バレンタインには、好きな相手にチョコレートを贈るものだろう?」
 その言葉に、エドワードは一気に顔が熱くなるのが分かる。
 好きな相手。もしかしてそれは、エドワードの事なのだろうか。
 どうしていいのか分からずに狼狽えるエドワードに、ロイが苦笑めいた笑みを浮かべる。
「受け取ってくれないか。……これでも、一所懸命選んだんだ」
 差し出されているチョコレートが、紛れもなくロイ自身が、エドワードの為に選んでくれたものだと知って、胸が熱くなる。
「わ、渡す相手が、オレでいいのかよ」
「君が、いいんだ」
 鋼の、と再び促されて、エドワードは恐る恐る、手を差し出す。ただそれだけの行為なのに、指先が震えて止まらない。
「その、あ……ありがと」
「うん。……日持ちのするものを選んだから、旅先でゆっくり食べて貰えると嬉しい」
 そこまで考えて選んでくれたのだと思うと、嬉しくて仕方がなくなる。君がいい、と言ってくれたロイの言葉を、そのまま素直に信じられる気がした。
 そして意を決して、顔を上げる。ロイがここまで言ってくれたのだから、エドワードも正直に自分の気持ちを伝えたかった。伝えなければならない、と思った。
「ん……あ、あのさ、オレも、ホントは、さっきのチョコ……その、」
 えっと、や、あの、という意味を成さない言葉で繋ぎながらも、どうしても言葉の続きが出て来ない。そんなエドワードに、ロイは柔らかく微笑んでくれる。
「――…ゆっくりでいいよ」
「う、ん……あの、さっきの、貰ったとかじゃなくて、ホントは……じ、自分で、買った」
 ようやくそれだけを告げて、エドワードは俯く。正確にはアルフォンスが買ってきてくれたものとはいえ、エドワードがロイの為に用意したチョコレートなのだと、それだけは伝えた

かった。その言葉に、ロイは嬉しそうに頷く。
「良ければ、これから食事に行かないか。……君に話したい事が、沢山あるんだ」
 ゆっくりと、柔らかい口調で、ロイがそんな誘いの言葉を口にする。
 ロイの言葉に、エドワードは少し迷うようにしてから、しかし、しっかりと頷いてみせた。
「――…オレも、大佐に話したい事、たくさんある」
「………うん。聞かせてくれ」
 そう言ってロイが差し出した手を、エドワードはそっと握りこむ。その温もりから、じんわりと、幸せがしみ込んでくるような気がした。



後日加筆修正してサイトに収納します〜。
posted by 観済寺凪之介 at 21:59| 小話